高タンパク質の食事を中心にする健康法やダイエット法がしばらく前から人気を集めているが、このほど、こうした食習慣は喫煙と同じくらい健康に悪い可能性がある、とする新しい研究結果が発表された。
南カリフォルニア大学デービス校老年学部の研究チームが、中年期に高タンパク質の食べ物を摂りすぎると、ガンや糖尿病によって早死にする危険性が高まる可能性があるという論文を発表したのだ。
研究チームがさまざまな民族から成る6318名の成人を対象に、過去20年間の既往歴を追跡調査した結果、動物性タンパク質の多い食事を摂っていた人は、ガンで死ぬ確率が、習慣的喫煙者のそれと同じくらい高くなったという。動物性タンパク質は、肉、チーズ、牛乳、卵などに多く含まれている。
研究チームは、動物性タンパク質は、調査期間中に何らかの原因で死亡する危険性を74%高めたと述べている。食事に含まれる脂肪と炭水化物の量を制限した場合であっても、動物性タンパク質の多い食事は健康に悪影響を与えたという。
この調査では、「低タンパク質の食事」をタンパク質由来のカロリーが10%以下、「高タンパク質の食事」をタンパク質由来のカロリーが20%以上と定義している。中年期の人々の場合、中程度のタンパク質の食事を摂っていた場合でも、ガンで死ぬ確率が3倍高くなったという。
一方、各種のマメやレンズマメ、ナッツなど植物性タンパク質の多い食事は、動物性タンパク質のような危険な影響を及ぼさなかった。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、成人女性については1日あたり46グラムのタンパク質を、成人男性については56グラムのタンパク質を摂るよう推奨しているが、「米国人の大多数が、本来摂るべき量のおよそ2倍のタンパク質を摂取している」と、論文共著者のヴァルター・ロンゴ氏はリリースで指摘している。「おそらく、食事を替える最適な方法は、あらゆるタンパク質、とりわけ動物性タンパク質の日常的な摂取量を下げることだろう」
高タンパク質ダイエット法については、以前から熱い議論が行われてきた。公衆衛生の専門家たちは、高タンパク質の食事は、見かけ以上に飽和脂肪が多くて繊維質が少ないため、コレステロール値が上がり、心臓病や心臓発作になる危険性が高まる可能性があると主張してきた。2010年には、高タンパク質の食事と、「男性における肺ガンと結腸直腸ガンにかかる率の高さ」には直接的な相関があるとする調査結果も発表された。
また、炭水化物をほとんど食べないようにするダイエット法として一時人気を集めた「アトキンスダイエット」を考案したロバート・アトキンス氏が、2003年に72歳で亡くなる前に心臓発作と心不全に見舞われていたことも、懸念される理由の1つだ。
中年期における高タンパク質の食事が健康に悪影響があるのは、タンパク質によって制御されるインスリン様成長因子1(IGF-I)の仕業ではないか、と研究チームは考えている。IGF-Iが少し増えただけでも、ガンによって死ぬ危険性が高まるという研究結果が出てきているからだ。さらに、おそらくはインスリンレベルも問題になっていると研究チームは考えている。
ただし、IGF-Iのレベルが自然に安定する65歳以降の人にとっては、高タンパク質の食事が有効になる可能性がある。65歳以上の場合は、タンパク質の含有量が多いか中程度の食事を摂っていた人々のほうが慢性疾患にかかりにくくなっていたのだ。
「ほとんどすべての人が、ある時期になるとガン細胞と前ガン細胞を体内に抱えるようになる。問題は、それが発達するかどうかということだ」と、ロンゴ氏は指摘する。「そのプロセスを決める主要な要因の1つが、タンパク質の摂取であることが今回の研究でわかった」
[(English) 日本語版:佐藤卓、合原弘子/ガリレオ]