犬が家族同様に扱われるようになり、肥満問題も人並みに深刻化している。ペットショップでは犬用ダイエットフードの売り上げが好調。フィットネス施設では「元気で長生きして」との飼い主の願いを受け、水泳やランニングに励むワンちゃんのけなげな姿が胸を打つ。(重松明子)
「平日で1日約20匹(頭)、土日はその倍の犬を診察していますが、半数に肥満やその兆候がある。原因はほぼ食事です」
東京臨海副都心のお台場パレットタウン内にある「ペットシティ動物病院 お台場」の大橋友美院長(38)が指摘した。2年前まで北海道で獣医師をしていた大橋院長は、「東京の都心部ほど犬の肥満が増えるようだ」と懸念を示す。タワーマンションが林立する周辺地域は狭い空間での室内飼いが当たり前。「『食事中に寄ってこられるとつい、自分のお皿のものをあげてしまう』という飼い主も少なくない。人間の食べ物の味を覚えてしまった犬はまたそれを欲しがり、ドッグフードを食べなくなるなど、栄養バランスを崩して肥満が進行しがち。飼い主の意識がすべてです」と注意を呼びかけた。
肥満は人間同様、関節炎や皮膚炎、生活習慣病などさまざまな病気の元となる。併設のペットショップ「ペコスお台場店」では、犬の肥満対策フードが143種。3キロ3千円前後が売れ筋で、売り上げは前年比112%に伸びている。また、室内で輪くぐりができる新商品など運動玩具も74種。「健診で肥満を指摘され慌てる飼い主さんもいますが、意識は年々確実に高まり、自分よりも愛犬のメタボ対策に必死な方も目立ちます」と西田理恵子店長(30)。
21日、同じ臨海副都心の犬専用温泉施設「綱吉の湯」で開かれた、「夏太り解消! ワンちゃんとの“絆”を深めるダイエット道場」会場を訪れると、10組の犬と飼い主が奮闘中。
並んでダッシュしたり、飼い主が愛犬を抱えてスクワットをするなど、ゲーム感覚のエクササイズが展開されていた。講師のドッグトレーナー、上野洋一郎さん(38)は「ワンちゃんは最も飼い主と遊びたい生きもの。一緒に体を動かすことで喜び、メタボが防げる」。
獣医師処方の減量食「メタボリックス」を販売する日本ヒルズ・コルゲートが、飼い主への肥満啓発を目的に開催した。
ペキニーズのオスの凛(3)と参加した、東京都豊島区の会社経営、藤田一巳さん(42)と妻の奈弥子さん(41)は、「去勢手術をしてから筋力が落ちたのが心配。手触りがコリコリからプヨッ…に変わって。この子に楽しく運動させるための正しい知識を得たい」と語る。幼犬時からスイミングに通わせており、イベント後には施設内のプールで上手に泳ぐ姿も見せてくれた。
同温泉には土日で1日約30匹(頭)が訪れ、半数以上が水泳をやり、効果を高める酸素カプセルなども利用されている。
一方、平成16年開業の日本初の犬専用フィットネスクラブ、東京都大田区「エル・ペロ」の木下務店長(58)は、「健康な犬の運動能力からいえば、普通の散歩だけでは物足りない」と話す。傷病リハビリからトライアスロンまで幅広いメニューを用意。「継続的な運動は肥満だけでなく寝たきり防止にも有効。人間社会同様に、高齢化問題への対策が必要です」
人と犬との関係が、“同病相憐れむ”領域にまで深化しているのか!?